小学館の女性メディアが急伸!その基盤となったブランド第一主義とは?

小学館の女性メディアが急伸!その基盤となったブランド第一主義とは?

2017年7月、小学館は「女性誌編集局」を廃止し、新たに「女性メディア局」を立ち上げた。それまで「女性メディア局」のウェブメディアは雑誌のプロモーション的存在に過ぎなかった。しかし、雑誌を編集するだけの女性誌編集局を、女性向けのあらゆるメディアを運営する女性メディア局へと変貌させた。

デジタル化が遅れているといわれる出版業界で先陣を切り、雑誌ブランドの多角化に踏み切った小学館。それをデジタル領域からサポートするのが、「デジタル事業局」だ。

以来、「CanCam」「Oggi」「美的」など、小学館ブランドを支える女性メディアを次々とリニューアルし、「女性メディア局」設立から1年たった今、アクセス数は前年対比400%以上と急伸を遂げている。その基盤となったのは、各ブランドの下に雑誌とウェブメディアが並列する、いわば「ブランド第一主義」ともいえる組織編成だ。

女性メディア局チーフプロデューサーの嶋野智紀氏と、デジタル事業局Webプロデュース室主任の山野明登氏に、雑誌とウェブメディアの統合戦略の意図と、その未来について語ってもらった。

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小学館の女性メディアは、合わせて月間1,950万UUに到達した(2018年3月時点)。

「女性メディア局」と「デジタル事業局」でグロースさせる

――2017年7月、女性メディア局が誕生した経緯についてお教えください。

嶋野: 女性メディア局は、雑誌だけでなくウェブメディアやリアルイベントなど、読者とのさまざまなコミュニケーションを図る局として位置付けています。そして、女性メディア局が運営するウェブメディアをグロースさせていくために、デジタル事業局がマーケティング領域やプロダクト領域でサポートするという体制です。女性メディア局とデジタル事業局で、情報共有しながらグロースを図ってきました。

女性メディア局チーフプロデューサーの嶋野智紀氏。

――女性メディア局のサポートとして、デジタル事業局があるという位置付けですね。

山野: そうですね。女性メディア局だけに限らず、各編集局がひとつはウェブメディアを立ち上げたり、成長させたりというときに相談に応じることは、デジタル事業局の大切な役割の1つです。社内Webコンサル的な立場でサポートし、小学館全体のウェブメディアをグロースさせるというのは、デジタル事業局の大事なミッションの一つです。

女性メディア局は、それまでの体制として、紙の編集長しかいなかった。女性誌のブランドを育てるために、雑誌とウェブの編集長がそれぞれ立つようになったタイミングで、どのサイトも作り直したいという相談があって、本格的なサポートを始めました。これまで雑誌の宣伝という位置付けだったウェブメディアを、独立したメディアに変えるお手伝いをさせていただきました。

デジタル事業局Webプロデュース室主任の山野明登氏。

雑誌とウェブの編集長を並列させた意味とは?

――ウェブメディアが独立したことで、どのような体制になりましたか。

嶋野:ウェブはウェブの編集長のもとに、独自の判断で動ける体制にしました。月刊誌とウェブでは進行のスピード感が全く違いますから、以前のように紙の編集長の判断を待たずに動けるようになったことは大きいですね。

――同じブランドの雑誌とウェブを作っていく際、具体的にどのように進めていくのでしょうか。

嶋野:それまでの「編集部」という組織を「ブランド室」という組織に変えました。それぞれの「ブランド室」に、ブランド室長がいて、その下に紙の雑誌の編集長とウェブの編集長が並列して存在する組織です。紙の雑誌は紙の編集長が、ウェブはウェブの編集長が、それぞれの領域の適性に合わせた仕事をしていく。要は、自分たちのメディアに専念しているので、グロースが早いということですね。

――各ブランド室が統括して、雑誌とウェブメディアを俯瞰してサポートしていくということですか。

嶋野:雑誌とウェブのトータルマネジメントは、ブランド室長がやります。例えば、「CanCam」のブランド室であれば、雑誌の編集長、ウェブの編集長がそれぞれ「CanCam」ブランドで最適化した仕事を目指します。定期的に報告をし合って、ブランド間の齟齬がないように室長がまとめていくという体制ですね。

雑誌主導からブランド第一主義へ

――ブランドという憲法があって、それに基づいて法律が作られるイメージですね。

嶋野:「CanCam」というブランドを成長させるために、雑誌でできることとウェブでできることを、それぞれ考えましょうということですね。例えば、イベントをやるとすれば、お互いどうしたらそのイベントが盛り上がるのかをいっしょに考えます。

それぞれのメディアの特性を生かした形で、いっしょに考える場合、元々雑誌のブランドがありますが、今はそこに引っ張られることはほとんどありません。従来だとウェブメディアはどうしても雑誌に引っ張られていた。そうすると、いつまでも主従関係になってしまう。雑誌が主でその他が従。でも、雑誌だけでは今の時代は限界がある。それなのに、いつまでも雑誌が偉いという意識が強かったので、そうならないために編集長を同じ権限で並列させたということです。

雑誌とウェブメディアが並列なので、もう「どっちが偉い」ではなく、それぞれ得意分野をやっていく。例えば、「CanCam」というブランドがあって、雑誌でアプローチするにはどうしたらいいかは、雑誌の編集長が考える。ウェブメディアでアプローチするにはどうしたらいいかは、ウェブの編集長が考える。そしてイベントは両者が協働したり、さらにもっと違うスタッフが入ったりするということもあります。

「CanCam.jp」は月間650万UU超え。ブランド成長に寄与している。

新体制になってからの現場の雰囲気は?

――新体制になって、ちょうど1年経ちましたが、現場の雰囲気は変わりましたか?

山野:雑誌の読者とウェブの読者は違うという理解が、この1年でかなり進んだ気がしますね。誌面をウェブ化するときに、やはりウェブの文脈に合わせて多少再構築しなくてはいけない。そのときに、「いやいや、本誌の趣旨と違うんだけど」みたいな衝突はあったと思いますが、そういうことは確実に減ってきたのかなと。元々、雑誌の編集者がウェブをやっていることもあって、そのへんはうまくコミュニケーションできるようになりつつあるという状態ではないでしょうか。

――雑誌のほうも、ウェブの作法を理解してきている感じでしょうか。

山野:「そういうものか」という感じになってきていると思います。あとは、雑誌にいた編集長がウェブの編集長になっているケースもあるので、どちらの気持ちもわかる。ウェブの編集長が「すべて外のIT企業から来ました」となると、多分成立しない。今、雑誌をやっている編集者も、いつウェブメディアをやることになるかわからない。そういう意識は高まっているのではないでしょうか。

――雑誌だから、ウェブだからという議論は、ナンセンスになってきそうですね。

山野:いや、多分そこはまだあるんじゃないですかね。でも、時代的にはそうしていかないと、生き残っていけないんじゃないですかね。

「ウェブの制作費が安い」という時代は変わりつつある

――ウェブメディアは原稿料やコンテンツ制作費が安いという傾向がありますが、小学館ではどうでしょうか。

嶋野:人月や手間暇には見合った形にはしたいと思っています。一方で、ギャランティーの水準は、我々単独で決めることではないので、業界の標準的なラインには沿っているかと思います。しかし、「他社の雑誌ではこれくらい払っていますよ」となると、やはりそこは意識せざるをえない。

今は確かに、雑誌のほうがウェブよりも高いという相場はあると思います。でも、それは広告の出稿費によって、今後変わってくると思います。時間をかけていいものを作るのであれば、標準を低く合わせる理由はないですし。

――ウェブサイトの広告の売上が、雑誌広告の売上より高くなっていけば、ウェブのコンテンツ制作費も上がってくるということでしょうか。

山野:現在、小学館の、雑誌とウェブにおける広告の売上比率は75対25ですが、半々になってくると、それに比例して制作費も上がっていく可能性はありますよね。ウェブにつぎ込んだら、それだけ広告収入が増えるというのが見えてきたら、可能性は十分にあると思います。今は、右肩上がりに伸びていますので。

タイアップ記事だと、やはりリッチに作れるんですよね。リッチなコンテンツを作れるのは、出版社の一番の強みなので、そこには力を入れていきたい。クライアントさんには、「いいコンテンツにのっかりたい」となってくれればと考えています。

――女性メディア局の立ち上げによって、この1年で雑誌への影響は見られましたか。

嶋野:基本はどのブランドも、ウェブメディアが伸びると本誌も伸びる関係になっています。昔はどこの出版社も、ウェブで読ませると雑誌を買わなくなると心配されましたが、そうはなっていないですね。基本的には、ウェブメディアが盛り上がって、ソーシャルメディアのフォロワーが増えると本誌の売上が伸びる、という相関関係にあります。

LINEやリアルイベントを活用していく

――この1年でも、かなり手応えがあると?

嶋野:例えば「美的」の場合だと、LINEのフォロワー数と本誌の実売数が正比例して伸びている実感があります。LINEで配信した「美的」のコンテンツで、日常的に読者とコミュニケーションをとることによって、「美的」というブランドに対する親和性やロイヤルティが高まる。それに比例して、雑誌も売れるようになることは、数字的にも出ています。

――今までにはいなかったターゲット層も掘り出されているイメージはありますか?

山野:LINEは、ユーザーを囲う場という位置付けで考えています。アプリを作るという手段もありますが、一から開発するよりは、既存のアカウントを使ったほうが安く済む。LINEを経由して美的.comに流入してくる人って、ロイヤルカスタマーなんですよ。そこに人を溜めていくというアクションは、ウェブメディアにとっても雑誌にとっても、すごく有用だと思います。

――ほかには、どんな施策がありますか?

嶋野:今年は、「美的フェス」というイベントを開催しました。雑誌で扱っているコンテンツを、リアルで再現するというフェスティバルです。渋谷ヒカリエの大ホールを借りてブースをたくさん出したのですが、一つひとつのブースが雑誌でいう特集みたいなイメージですね。プロのヘアメイクさんが読者にメイクをしてあげる企画とか。美的フェスには、読者1,820人が参加してくれました。

リアルな体験を提供した場合、今の時代は来訪者がただ「おもしろかった」では終わらない。例えば、自分たちのInstagramやTwitterに投稿してもらって拡散していく。それを、「美的」の公式アカウントがフォローアップして、より広まっていく。本誌でやっていることをリアルイベントで体験して、それがソーシャルメディアで拡散し、ウェブメディアでも展開されていく。いろいろなコミュニケーション手段を経由していくのは、今、すごくおもしろいですよね。

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今年3月に開催された「美的フェス」では、雑誌でおなじみの美のプロたちが登場した。

ブランディングの基本は、何をやらないかを決めること

――イベントのようなリアル体験は付加価値がつくから、今後さらに重要になってきそうですね。

嶋野:そうですね。「コト消費」という潮流が明白にありますからね。リアル体験は、コト消費における非常に有効な手段のひとつだと思います。体験後の口コミが拡散されるなど、ブランドの認知度が向上することにもつながります。

――マネタイズについてはどのように考えているのでしょうか。

嶋野:雑誌がどれだけ買われて、ウェブメディアに何人が訪問して、ソーシャルメディアに投稿すると何人に届くのかなど、いろいろなメディアの合わせ技で、読者にどのくらい情報が届くのかを考えていかないといけない。そうしないと、なかなかマネタイズはしにくいんです。ウェブだけでなく、雑誌、ソーシャルメディア、イベントなど、もっと総合的に考えていく必要があると思います。

次に進むとしたら、ブランドごとの特徴を生かした進化をしていくことが重要だと考えています。ブランド体験が、ユーザーの満足度を上げることになる。我々のビジネスは、ユーザーの皆さんの満足度が上がれば、結果的に売上につながると思いますので。

ただ、PVやUUばかりを追って、やり方を間違えると、数を追求してどこにでもあるような情報ばかりになり、コモディティ化してしまいます。実は、すごく濃いコミュニケーションをしたい人たちが集まっていたのに、パイを広げることでコアなファンが離れてしまうこともある。パイが広がることで、魅力が薄れるブランドもあるかもしれない。逆に、もっと世界中に広げたほうがいいブランドがあるかもしれない。そこを、ブランドごとに最適化していきたい。

――最後に、ブランディングする上で大事なことを教えてください。

嶋野:ブランディングの基本は、何をやらないかを決めること。全部をすることではない。だからこそ、そこに個性が生まれる。それが、今の女性雑誌ブランドに必要なことですね。もちろん世の中には、全世界の人がターゲットだというブランドも存在しています。そこには雑誌、ウェブメディア、ソーシャルメディア、イベント、その他が融合していく世界がある。デジタルが中心のブランドもあるかもしれないし、実は紙メディアが一番というブランドも出てくるかもしれない。今は早く、そういったブランドビジネスを進化させていきたいというところですね。

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著者紹介

成田 幸久(なりた ゆきひさ)
成田 幸久(なりた ゆきひさ) コンテンツディレクター(コンテンツマーケティング戦略支援・制作支援)

AMEX会員誌「IMPRESSION」や「ワイアード」日本版、JAL機内誌「winds」などで副編集長を務めた後、眞鍋かをりなどの著名人ブログをプロデュース。ほか、「ギズモード・ジャパン」創刊ディレクター、セブン–イレブンとヤフーの共同事業メディア「月刊4B」編集長、オウンドメディアのアドバイザリー支援など、ウェブメディアの企画・運用など実績多数。著書に『愛されるWebコンテンツの作り方 』がある。

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