OnTrip JAL(日本航空) vs ANA Travel & Life(全日本空輸)【オウンドメディア一本勝負!第3回】

OnTrip JAL(日本航空) vs ANA Travel & Life(全日本空輸)【オウンドメディア一本勝負!第3回】

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成功するオウンドメディアと失敗するオウンドメディアの違いは何なのでしょうか。私たちは、何を基準にオウンドメディアを運営していけば良いのでしょうか。
「オウンドメディア一本勝負!」では、さまざまな業界の気になるオウンドメディアを比較・検証し、その答えを探っていきます。

第3回は、日本の二大航空会社、日本航空株式会社(以下、JAL)の「OnTrip JAL」と、全日本空輸株式会社(以下、ANA)の「ANA Travel & Life」。
「OnTrip JAL」は、「自分らしい旅のヒントが見つかる」をキャッチフレーズに、それまで運営してきた「JAL旅プラスなび」を2017年にリニューアル。
「ANA Travel & Life」は、「好奇心を刺激する、旅と日常にまつわるWebマガジン」をコンセプトに、2015年に「ANAバケーション」からリニューアルしました。旅にまつわる多彩なコンテンツが人気で、スタートから1ヵ月で、訪問者数は倍に伸びたそうです。

「オウンドメディア一本勝負!」では、次に挙げる5つの指標において、それぞれのメディアを採点していきます。

<5つの指標>

【1】ブランディング
企業に対する共感や信頼を通じて価値を高められているか。

【2】おや?まあ!へぇ~
疑問や好奇心を抱かせ、驚きや発見を与え、納得してもらえているか。

【3】ソートリーダーシップ
未来を見据えた革新的な提案によって、業界を主導できているか。

【4】解決策の提示
ユーザーが抱える課題や悩み、欲求を満たす提案ができているか。

【5】ストーリー性
心を動かし、記憶に残し、態度変容を促すストーリーが提供できているか。

【1】ブランディング

JALとANAは、ともに日本を代表する航空会社です。往年の勢いはないものの、今も就職人気ランキングで、常に上位に顔を出す企業です。

両社は国内線・国際線を問わず、しのぎを削るライバル同士で、お互いブランディングには力を入れています。特にJALは、2010年に経営破綻したこともあり、再生をかけたブランディングに注力する意気込みは、オウンドメディアを通じても伝わってきます。

ANAは、英国の格づけ機関SKYTRAX社の5つ星評価(5スター)を7年連続で獲得するなど、世界の優良航空会社にも選ばれる輝かしい実績を誇ります。

すでにブランドを確立している両社ですが、オウンドメディアではそれぞれどんなアプローチでブランディングをしているのでしょうか。ブランディングには、主に以下の4つの目的があります。

<ブランディングの目的>
・知名度を上げる
・競合と差別化を図る
・高い付加価値をつける
・固定顧客を確保する

まず、「知名度を上げる」点において、両社はすでに知らない人はいない企業なので、オウンドメディアにおいては、あえて知名度アップ(PV数や拡散)を主題に置いてはいないと思われます。

「競合と差別化を図る」点においては、航空業界は差別化が難しいといわれます。特に近年は、規制緩和に伴うLCC(ローコストキャリア、格安航空会社)の台頭によって厳しい競争にさらされています。ブランドによって十分な差別化ができない新興企業は、顧客を囲い込む手段として格安航空券で勝負をしてきます。しかし、JALとANAは、価格競争には足を踏み入れませんでした。

たとえ価格が格安でなくても、JALやANAを利用する客は今も増え続けています。オウンドメディアでは、長年日本の航空業界を牽引してきた信頼感や安心感に根ざしたファンの獲得と、ロイヤルティの醸成に注力しているといえます。

航空会社にとって「高い付加価値」は、安心感・安全性を大前提にしつつ、いかに乗客へのきめ細かなサービスを提供できるかにかかっています。とはいえ、サービスでの差別化が難しいといわれる業界です。それゆえに、オウンドメディアの果たす役割が大きくなってきます。オウンドメディアで提供する情報は、顧客の確保とリテンションのための上質なサービスの一環といえるからです。

「固定顧客を確保する」施策として、オウンドメディアが果たす役割はそれほど大きくはないかもしれません。「OnTrip JAL」は、チケット販売への導線は多少あるものの、コンバージョンを重視している印象はありません。「ANA Travel & Life」も同様で、チケット販売サイトへの導線は少なからずありますが、コンテンツ単位でのコンバージョンを狙っているわけではありません。

両メディアはともに、短期的な売上向上や顧客獲得よりも、エンゲージメントにつなげる長期的戦略でファン化を狙っているといえるでしょう。ともに会社やサービスの魅力訴求よりも、旅の楽しさや魅力の訴求に徹しています。

◆ブランディングの採点◆
4(OnTrip JAL):4(ANA Travel & Life)

JALは2010年の経営破綻、2011年の東日本大震災以降、国際線・国内線ともに乗客数でANAに追いつかれ、ほぼ互角の勝負をしています。両社が今後、オウンドメディアを通じてどのような差別化を図ってブランディングしていくのか、とても楽しみです。

【2】おや?まあ!へぇ~

コンテンツの作り方において、両メディアの方針には大きな違いが見られます。

「OnTrip JAL」は、リニューアル前までは、PV数を増やすことを意識して掲載本数をいかに増やすかに注力していました。しかし、リニューアル後は、本数にこだわらずオリジナリティと品質を重視しているようです。

「ANA Travel & Life」は、旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」と提携し、コンテンツの多くが「トリップアドバイザー」からの提供となっています。「ANAオリジナル」とカテゴライズされたオリジナル記事もありますが、「絶景10選」「おすすめスポット6選」といったまとめ記事的なコンテンツが中心となっています。「トリップアドバイザー」への依存度が高いこともあって、ANAならではの「おや?まあ!へぇ~」の要素を盛り込んだオリジナリティは、希薄といわざるをえません。

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対して「OnTrip JAL」は、「レンタカーを使わずどれだけ満喫できるか!1泊2日沖縄の旅」「浅草は雨でも楽しい。濡れずに1日を満喫する観光プラン」「世界一の機内食を目指して。JALファーストクラスのメニュー選定会議の模様をレポート」など、ユニークな切り口やJALにしか提供できないオリジナルコンテンツにこだわっています。

「TRAVEL VOICE」のインタビューで、「OnTrip JAL」の制作を担当するJALブランドコミュニケーションの五十嵐梓氏は、「いわゆる『定番』といわれるような内容は、できるだけ取り上げないようにしている」と語っています。
そのコメントを象徴するように、「OnTrip JAL」のコンテンツ一つひとつに、その信念が垣間見えます。

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◆おや?まあ!へぇ~の採点◆
5(OnTrip JAL):2(ANA Travel & Life)

旅そのものが、まさに非日常的な「おや?まあ!へぇ~」の体験です。だからこそ人は、長期休暇をとったり、高い料金を払ったりしてでも旅に出掛けます。その非日常的な疑似体験ができるという点で、「OnTrip JAL」の圧勝です。「ANA Travel & Life」も、せっかくチケット販売と切り離して展開しているのであれば、単なる観光名所紹介にとどまらず、人や文化、生活、体験が疑似体験できるコンテンツを強化していくとより深みが増してくるかと思います。

【3】ソートリーダーシップ

両社ともに、日本の航空業界のナンバー1の座をかけてしのぎを削っていますが、オウンドメディアでは企業理念を強く打ち出していません。

しかしながら、「OnTrip JAL」では「旅のTips」というカテゴリを設け、JALのサービスや航空機の紹介など、さまざまな自社の情報を提供しています。また、キャビンアテンダントやパイロットをはじめ、カリスマ添乗員や支店のスタッフも旅に関する情報を提供することで、JALグループ全体でメディアを盛り上げていこうという意気込みが伝わってきます。

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「ANA Travel & Life」には、「CA’s Note」というANAのキャビンアテンダント8名を前面に押し出したコーナーがあります。ANAの“中の人”の顔が見えるのは、ユーザーとコミュニケーションを図る上でとても効果的ですが、観光スポットやサービスの紹介にとどまっている点が少し惜しい気がします。

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◆ソートリーダーシップの採点◆
4(OnTrip JAL):2(ANA Travel & Life)

ソートリーダーシップという点では、「OnTrip JAL」は現場のスタッフを積極的に出していくことで、JALという企業の素顔が垣間見え、ユーザーにどんなことを伝えていきたいか、その思想や理念も暗に伝わってきます。一方、「ANA Travel & Life」はキャビンアテンダントのコーナーを設置し、全面的に推しつつも、あくまでもナビゲーターに徹しており、会社としてのソートリーダーシップ性はあえて出さないようにしているのかもしれません。

【4】解決策の提示

旅行に行きたいと思ったとき、ユーザーはまず何を知りたいと思うでしょうか。それを考えれば、どんなコンテンツを提供すべきか自ずと見えてきます。国や観光スポットを目当てにする人もいれば、「癒やされたい」「くつろぎたい」という思いで旅先を選ぶ人もいます。「大自然にふれたい」「買い物がしたい」「温泉に入りたい」「おいしい料理が食べたい」といった理由で旅行をする人もいるでしょう。そのようなニーズに的確に応えて、かゆいところに手が届くコンテンツを提供しているかが勝負となります。

「OnTrip JAL」の個々の企画は、単なる観光スポットの紹介にとどまっていません。ピンポイントの、テーマ発見型が多いことが特徴です。読者に新たな発見と気づきを与え、「旅が最高の思い出になるかどうかはあなた次第、自分で旅のおもしろさを見つけてください」というスタンスです。

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一方、「ANA Travel & Life」のコンテンツは、どこへ旅をしたらどんなおもしろいことがあるか、たくさんの選択肢を用意して教えてくれるストレートな回答提供型です。あれこれ考えず魅力的な観光地を探したい人や、旅行初心者には便利なナビゲーターとなっています。

◆解決策の提示の採点◆
3(OnTrip JAL):5(ANA Travel & Life)

テーマ発見型の「OnTrip JAL」と、回答提供決型の「ANA Travel & Life」。どちらも、読者のニーズに合わせた課題解決型のサイトといえます。観光地巡りをするだけでは物足りないという人には「OnTrip JAL」、とにかくあちこち見知らぬ世界に行ってみたいという人は「ANA Travel & Life」がより楽しめそうです。
いずれにしても、どんなニーズから探しても、最終的に目的のコンテンツにたどり着けるようになっているので、UI的にはどちらも検索しやすく、過不足はないといって良いでしょう。

【5】ストーリー性

ユーザーにファンになってもらうためには、まずユーザーの立場になって「心が動くストーリー」を用意しなければなりません。

「OnTrip JAL」の「旅のTips」には、さまざまなストーリーが展開されています。例えば、「なぜAIRBUS機だったのか。プロジェクトチームの7年にわたる挑戦」「バリアフリーじゃないから大自然は楽しい。車いすで空から海まで」「写真家ヨシダナギがアフリカで学んだ「言葉より大切なもの」とは」といった記事です。

また「for woman」という女性向けのカテゴリでは、「旅の達人」として登場するタレントや文化人などが体験した心揺さぶるストーリーが、旅に新しい発見や視点をもたらしてくれます。

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「ANA Travel & Life」は、基本的に観光ガイドに徹しているので、ストーリーを展開させたコンテンツはほとんど見られません。「トリップアドバイザー」との相乗効果もあって、読者層は増えているのだと思います。一部の記事をまとめ記事の体裁にしているのは、スマートフォンユーザーを意識したコンテンツづくりともいえます。
しかし、その企業にしかできないコンテンツを提供しているわけではありません。エンゲージメント構築のためには、もう少し深いコンテンツづくりに注力してもいいのではないかと思います。

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◆ストーリー性の採点◆
5(OnTrip JAL):2(ANA Travel & Life)

ユーザーが憧れたり、行ってみたいと思ったり、同じ喜び、同じ幸せ、同じ楽しみを共有する。そして、ユーザーのストーリーと提供するコンテンツが同期したとき、そこに共感が生まれ、ユーザーは心を許し、ファンになってくれることでしょう。ストーリーは、何かを発見し、驚き、感動する気持ちを形にすることです。

総合結果

最後に、それぞれの項目の結果を合計してみましょう。

◆合計◆
21(OnTrip JAL):15(ANA Travel & Life)

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「OnTrip JAL」は、リニューアル後はPV数よりも、読了率、回遊率、滞在時間を重視する方針を貫いていることもあって、深く濃いコンテンツづくりに注力している印象が強くあります。ただし、各記事の最後にソーシャルボタンがつけられているだけで、JALのSNSと積極的な連携はされていないのはもったいなく感じられます。

「ANA Travel & Life」は、まとめ記事を多く掲載していることから、「OnTrip JAL」に比べPV数をより意識しているように思われます。しかし、オウンドメディアで最も重要なのはPV数ではなく、ユーザーとの長期的な信頼関係の構築です。その多くが「借り物」のコンテンツで構成されている「ANA Travel & Life」よりも、自社でしか発信できないオリジナルコンテンツを多くそろえている「OnTrip JAL」のほうが、長期的視点に立てばオウンドメディアが目指すべき理想形を具現化していると感じます。「OnTrip JAL」はコンテンツ量とSEO、「ANA Travel & Life」はオリジナリティを強化していくことが今後の課題かもしれません。

あなたも自社と競合のオウンドメディアで、5ラウンド勝負してみてはいかがでしょうか。きっと、今まで気づかなかった課題とやるべき戦略が見えてきますよ。

著者紹介

成田 幸久(なりた ゆきひさ)
成田 幸久(なりた ゆきひさ) コンテンツディレクター(コンテンツマーケティング戦略支援・制作支援)

AMEX会員誌「IMPRESSION」や「ワイアード」日本版、JAL機内誌「winds」などで副編集長を務めた後、眞鍋かをりなどの著名人ブログをプロデュース。ほか、「ギズモード・ジャパン」創刊ディレクター、セブン–イレブンとヤフーの共同事業メディア「月刊4B」編集長、オウンドメディアのアドバイザリー支援など、ウェブメディアの企画・運用など実績多数。著書に『愛されるWebコンテンツの作り方 』がある。

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