投資の三原則(長期/積立/分散)【コンテンツづくりの三原則 第4回】

投資の三原則(長期/積立/分散)【コンテンツづくりの三原則 第4回】

オウンドメディア運営において、コンテンツづくりは最大の肝です。「コンテンツづくりの三原則」では、毎月1つのコンテンツづくりのテーマや目的を取り上げ、そこに紐づく3つのトピックを深掘りしていきます。

4回は「投資の三原則」。オウンドメディアを運用するにあたって意識しておきたい「長期」「積立」「分散」の鉄則について解説します。

元々、投資の三原則とは、長期、積立、分散の三原則を守って、それに適した投資信託を選べば、投資したお金が元本割れする可能性を軽減できるという原則です。
これはまさに、オウンドメディアの運用にもあてはまる原則です。オウンドメディアを運用することは、企業にとって投資です。オウンドメディアでは、セールスパーソンに代わってコンテンツに営業してもらうことができるので、上手に運用すれば優良顧客を育成し、企業の売上に貢献してくれます。

オウンドメディアを運営する人にとっては、「失敗して損をしたくない」「すぐに利益につながらない」「商品が売れるタイミングがわからない」「リソース不足で運用が大変」など、さまざまな不安があるに違いありません。しかし、長期、積立、分散の3つの投資手法を知っていれば、オウンドメディアの運用が成功に導かれていくに違いありません。

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長期投資のメリット

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長期投資とは、時間をかけて資産(コンテンツ)を育てることです。運用する期間が長くなればなるほど資産(コンテンツ)は着実に増え、その価値と信頼は高まっていきます。

オウンドメディアの価値を評価するもののひとつに、「ドメインパワー」と呼ばれる指標があります。定期的にコンテンツを投稿したドメインは徐々に評価されていくため、しっかりと長く運用されているドメインは「ドメインパワーが高い」と評価されるのです。

とはいえ、認知獲得や一時的なアクセス数を稼ぐために「おもしろコンテンツ」や「バズコンテンツ」を闇雲に求めるのは、投資ではなく投機です。投機は、ユーザーとのエンゲージメント向上にはなかなかつながりません。
オウンドメディアは、投機で一攫千金を狙うものではなく、知恵を絞りコンテンツという資産を長期運用していくものです。一時的に大金を注ぎ込んで広告を出したり、キャンペーンを実施したりすることとは異なります。投資リスクを低く抑えながら、無理のない運用をすることが大切なのです。

NHK連続テレビ小説は、オウンドメディアの理想を体現している?

途中で挫折しないでオウンドメディアを続けるためには、新規顧客の開拓だけでなく、見込み顧客を集め、優良顧客に育成していく戦略が必要になります。そうしなければ、長期的なユーザーとの信頼関係を築くことができません。優良顧客をはぐくみ、継続的な信頼関係を結ぶことが、ひいては長期的かつ安定した売上の向上につながるのです。

ハリウッド映画とNHK連続テレビ小説を例に比較してみるとわかりやすいかもしれません。大ヒットするハリウッド映画は、その製作資金も莫大です。大作になれば100億円以上、中規模で50億円、低予算映画でも20億円程度といわれます。ハイリスク・ハイリターンがハリウッド映画の基本的なビジネススキームです。

一方、NHK連続テレビ小説のビジネススキームは、「地味に長く」が基本です。115分の番組で、制作費は1話あたり約1,000万円程度といわれています。1タイトル全150話として約15億円です。また、2時間の映画に換算すれば約8,000万円と、ハリウッド映画に比べるとかなりの差があります。
かつては、4050%の視聴率を弾き出していた時代もありました。近年は、テレビ離れや女性の社会進出もあって下がっているものの、それでも平均20%の視聴率を維持しています(民放ドラマなら10%で十分成功)。NHK連続テレビ小説が始まったのは1961年ですから、その長寿ぶりも驚異的です。

低予算、コンテンツの小出し、継続的な制作、長期投資――NHK連続テレビ小説はまさに、オウンドメディアの理想形を象徴する好例といえます。

積立投資のメリット

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積立投資には、「少額からでも投資ができる」「リスクの分散ができる」「自動的に投資を続けられる」という、3つのメリットが挙げられます。積立投資は、毎月決まった金額で継続して投資をすることです。毎月、少額でも始められるので、まとまった資金がなくても気軽に始めることができます。また、定期的に少しずつ投資し続けるので、市場の変動に翻弄されることを避けられます。

SNSが全盛の時代、多くのユーザーはSNSから情報を得ます。SNSに流れるコンテンツは、毎日、毎分単位で現れては流れていくフロー情報です。SNSで発信されるフロー情報は、即時性と喜怒哀楽の感情の誘発には強いですが、論理性と思考性には弱いという側面を持ちます。

一方、オウンドメディアで発信するコンテンツは、論理性と思考性に強いストック情報を中心に構成されます。SNSの多くを占める、広く浅い一過性のフロー情報をオウンドメディアで積立投資するのは、費用対効果が悪くなってしまいます。オウンドメディアで積立投資のメリットを最大限に活用するには、思考を促す、深く掘り下げたストック型コンテンツのほうが、相性がいいのです。

積立のメリットを活用している「キリンビール大学」

それでは、積立のメリットを最大限に活用、つまり、ストック型コンテンツを積み上げて成功したオウンドメディアにはどのようなものがあるでしょうか。

キリンビール大学」(キリンホールディングス株式会社)は、ビールについて楽しく知って、おいしく味わうための知識を発信するオウンドメディアです。「醸造学部」「文化学部」「史学部」「芸術学部」「経済学部」「部活動」という6つのカテゴリーが設置され、それぞれに専門性の高い情報が詳しく楽しく紹介されています。

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ビールは、一般的には消費者の思考が購買にあまり関与しない「低関与商材」に分類されます。つまり、低価格で日常的に消費するため、性能や品質の差別化が難しく、消費者が何を選んでもあまり違いがないと考えられる商品です。
低関与商材を購入する際、消費者はあまり考えずに、よく知っているブランドや見慣れたデザイン、安い値段を判断基準にします。そして、なんとなく同じ商品を買い続ける傾向があるといわれます。

ちょっと古い2002年のデータですが、株式会社富士通総研が発表している論文「情報サーチと消費者行動―消費者はネット情報をどのように使っているか」によると、ビールは洗濯用洗剤、ネクタイなどと同様に、平均的に低関与な商品とされています。

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※株式会社富士通総研「情報サーチと消費者行動―消費者はネット情報をどのように使っているか」(2002年)

論文には「平均的に低関与なビール、洗濯用洗剤、ネクタイなどでは平均検索時間は10分に満たない。同一商品の中でも同様であって、その商品への関与が高い人ほどネット検索時間も長いことが示された(図表10)。パソコンのように平均的に高関与な商品だけでなく、ビールのような商品でも関与の高い人は、それなりに検索を実行していることがわかる」と記述されています。

つまり、差別化が難しい低関与商品ではあるものの、高関与な人も少なからずいるビールのような商品に関連する情報は、ユーザーの継続的な訪問を促す可能性が高いため、質の高いコンテンツを積み立てることで、具体的な商品へと誘導できる可能性が高いといえます。
「キリンビール大学」は、ユーザーの日常に根ざしたストック型情報を提供することで、見込み顧客を集め、優良顧客に育成している好例といえるでしょう。

分散投資のメリット

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1つの資産に集中して投資をすると、資産運用がうまくいかなくなったときに、その影響が非常に大きくなります。そのリスクを回避するための手法が分散投資です。
投資には、「卵は1つのカゴに盛るな」という格言があります。これは、1つのカゴにすべての卵を入れておくと、転んだときにすべての卵が割れてしまうから、複数のカゴに分けてリスクを分散させるという意味です。つまり、投資の対象商品を複数組み合わせることで、価格変動のリスクを抑えることができるということです。

1つの資産(コンテンツ)だけに投資をするよりも、それぞれ違った役割を果たす複数の資産(コンテンツ)を組み合わせたほうが、全体としてユーザーへのリーチやエンゲージメントのばらつきが小さくなり、リスクを軽減することが期待できます。
メディアのチャネルやコンテンツの種類を分散して投資すれば、長期的に安定した成長の恩恵を享受することが期待できるのです。

ワンソース・マルチユースは効率的な発信の方法

コンテンツを発信する際は、オウンドメディアを拠点にしながら、「長期」に「積立」をしたコンテンツを最大限に活かすためにも、そのコンテンツを複数のチャネルに「分散」して発信していくことが欠かせません。

効率を考えて、1つのソースをさまざまな方法で使うことを、「ワンソース・マルチユース」といいます。チャネルごとに違ったコンテンツを作るのに比べると制作の労力はかからず、さまざまなチャネルから興味を持った人を呼び込むことができるため、多くの人に見てもらえるようになるのが最大のメリットです。
当然、利用できるチャネルが多ければ多いほど、効果は大きくなります。チャネルが違っても同じコンセプトで同じ企画・制作を行えるため、単独での使用に比べて高い費用対効果が期待できるのです。ただし、ワンソースといっても、まったく同じコンテンツをただ分散するだけでは効果は半減しますので、各チャネルの特性に合わせたコンテンツに調整しなければなりません。

例えば、テレワークビジネスを例に、コンテンツをワンソース・マルチユースで制作する計画を立ててみましょう。

コンテンツのワンソース・マルチユース例

ここでは、日々更新されるブログの記事をワンソースとします。ブログの記事は、さまざまなチャネルに活かせるよう、最新の開発状況のレポートやコラム、世界のテレワークの現状、開発者の紹介といった内容にしています。

まずは、「KGI」「コンセプト」「ペルソナ」を設定します。

  • KGI:テレワークのための仮想オフィスアプリの販売促進
  • コンセプト:働き方改革の一環としてテレワークを推奨
  • ペルソナ:経営者、人事担当、就職・転職希望者、独立希望者、フリーランス

また、SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威の4項目を軸に現状を分析する手法)を用いて「自社特性」を、ポジショニングマップを使って「競合市場」についても調べておきます。

これらにもとづき、既存のブログ記事を展開できるチャネルを考えてみましょう。

<基礎情報の整理と発信>

  • PDF:テレワークが実現する社会
  • ニュースリリース:リモートワークの動向、セミナー、説明会、学会などの定期告知
  • メールマガジン:テレワーク実施企業の成功例

既存コンテンツをわかりやすく整理して、ユーザーの動向に合わせてPDF、メールマガジン、ニュースリリースにして配信。

<導線強化>

  • SNS:テレワークに関するトリビアネタ、体験レポート(働き方の何が変わったのか、快適性、安全性、居住性、健康など)、著名企業家のテレワーク術、在宅オフィス家具最新ツール

Twitter、FacebookYouTubeLINEなどのSNSを使って、サイト外から新しいユーザーを呼び込みます。そのための導線設計と、コンテンツマーケティングを実施。

<商品・サービスの深い情報>

  • ホワイトペーパー:テレワークのレポート、シンポジウムなどの発表資料、導入後の試算、投資価値について

商品やサービスに関心を示した見込み顧客に向けて、ユーザーレビュー、ケーススタディ、Q&Aなど、より具体的に深い情報を提供し、ロイヤルティの向上を図り、拡散を促進。

<コンテンツの強化>

  • 動画コンテンツ:テレワークに関する感動ドラマ、体験レポート(著名企業家を起用して話題性を狙う)

基礎情報の補足や実際に使うシーンなど、利用者の心理的障壁をより下げるためのコンテンツを発信。課題解決型コンテンツだけでなく、より深く掘り下げたエンターテインメント性とオリジナリティの高いコンテンツ開発を目指す。

これらのチャネルは、時系列で段階を踏んで進めてもいいですし、ユーザーの反応を見ながらPDCAを回し、最も適切なチャネルを組み合わせながら進めてもいいでしょう。オウンドメディアの運用は長期戦です。限られた予算でいかに効率良く配信していくかが、成功に導くカギとなります。
ここで紹介したチャネル別コンテンツをすべて一気にやる必要はありません。PDCAを回しながら、適切なコンテンツを適切なターゲットに、適切なタイミングで配信していけるように制作していきます。

また、近年はオンラインのチャネルだけでなく、オフラインを視野に入れる施策も非常に重要になってきています。商品・サービスがコモディティ化して差別化が難しくなればなるほど、マーケットのニーズはモノからヒト・コトへとシフトしていきます。
ユーザーとのリアルなコミュニケーションを図るためにもオンラインのチャネルと併せて、リアル体験が可能なチャネルも用意しておくといいでしょう。

オウンドメディアの運用はハイリスク・ハイリターンの投機ではない

以上、オウンドメディアを運営する上で意識しておきたい、長期、積立、分散の投資の三原則を紹介しました。

昨年は大手企業のオウンドメディアが次々と撤退し、オウンドメディアを見直す年となりました。資金を注ぎ込んで大量のコンテンツを配信するビジネススキームに限界が見えてきたのかもしれません。

一方で、当サイトでも紹介している、野村證券株式会社の「EL BORDE」や、第一三共ヘルスケア株式会社の「健康美塾」、カゴメ株式会社の「&KAGOME」といった大企業のようによりユーザーに寄り添ったオウンドメディアや、弥生株式会社の「スモビバ!」や株式会社Waseiの「灯台もと暮らし」のようなスタートアップや中小企業による一点突破型のこだわりの強いオウンドメディアが増えています。

また、オウンドメディアの先駆けとして知られる「北欧、暮らしの道具店」「サイボウズ式」「LIG」「ほぼ日刊イトイ新聞」といったオウンドメディアは、長期、積立、分散を上手に活用することで、今日も息長くその存在感をアピールすることに成功しています。

長期、積立、分散の投資の三原則は、オウンドメディア運用の三原則でもあります。オウンドメディアの運用は、決してハイリスク・ハイリターンの投機ではありません。

  • 失敗して損をしたくない→損をどれだけ小さくするか
  • すぐに利益につながらない→小さな利益をどれだけ長く続けるか
  • 商品が売れるタイミングがわからない→いかにして顧客と信頼関係を結ぶか

これらがオウンドメディアの基本的な考え方です。
長期、積立、分散の投資の三原則を意識しながら上手につき合っていくことが、最も安全で確実なオウンドメディアの運用方法といえるのです。

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編集者情報

金子 光
金子 光(かねこ ひかる)
新卒で楽天グループ株式会社に入社。
営業管理として40人規模のチームをマネジメント。その後社員3人のベンチャー企業に入社し新規事業立ち上げを経験。
現在はナイルのマーケティング相談室編集長として、Webマーケティングに従事している。
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監修者情報

ナイル編集部
ナイル編集部

2007年に創業し、約15年間で累計2,000社以上の会社にマーケティング支援を行う。また、会社としても様々な本を出版しており、業界へのノウハウ浸透に貢献している。(実績・事例はこちら

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