小さな価値観が大きなムーブメントを生む!大丸松坂屋百貨店 未来定番研究所

小さな価値観が大きなムーブメントを生む!大丸松坂屋百貨店 未来定番研究所

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「5年先の未来定番生活を提案する百貨店」を理念に掲げ、株式会社大丸松坂屋百貨店が立ち上げた、未来定番研究所。その情報発信拠点として誕生したのが、オウンドメディア「F.I.N.(FUTURE IS NOW)」だ。明治末期頃に建てられたという古民家を改装したオフィスから、次々と「未来の定番」を生み出している。

「百貨店は、今の売れ筋中心となり、未来の提案に消極的になった」と、未来定番研究所の今谷秀和所長は、百貨店の現状に警鐘を鳴らす。

F.I.N.が関わるプロジェクトは、メディアの運営だけではない。その役割は、売り場や商品とクリエイターとの仲介、全国の大丸松坂屋各店のブランディング、売り場のコンセプト立案、各部署からのさまざまな相談など多岐にわたる。

「ネタを探すのではなく、種を作る」と何度も口にする今谷所長。その言葉の裏には、F.I.N.が単なるメディアでなく、企業活動のハブとして中心的役割を果たすという強い信念が宿っている。

まさに、「今、未来を創る」メディアとして成長を続けるF.I.N.。今谷所長に、百貨店やメディアが直面する今、そして未来について伺った。

2「FUTURE IS NOW(F.I.N.)」は、5年後の定番になる「種」を見つけ、紹介するメディア。

過去を見ている百貨店に危機感を覚えた

――「F.I.N.(FUTURE IS NOW)」を立ち上げた経緯とコンセプトを教えてください。

2017年3月に、未来定番研究所の設立と同時に立ち上げました。現在のネットマーケティングは、自分の過去の購買履歴と現在の売れ筋を分析し、「あなたの欲しいものはこれでしょ?」と商品やサービスを提案するものです。

しかし、百貨店はそれすらできていない。消費者が欲しいものが見つかった瞬間にネットで検索すれば、その場で何でも買えてしまう時代。逆に、百貨店に置いてあるものは、検索では探せない。百貨店は、「本当はこんな物が欲しかったんだ」と、訪れて初めて気付いてもらうのが役割だった。でも、今の百貨店は、既に知っている売れ筋が並んでいるだけになってしまっています。

そこに僕は危機感を覚えて、自分たちがやらなくてはいけないのは、「未来を創るマーケティング」だと思ったんです。コンセプトは、メディアタイトルが表すとおり「FUTURE IS NOW」。「未来は今すでに始まっている。未来は予測するものではなく、作り出すものである」という意味を込めています。モノの提案ではなくて、新しいライフスタイルを提案するために、F.I.N.を立ち上げたというのが経緯です。

「5年先の未来」に見えるものとは?

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――F.I.N.は「5年先の未来の生活を提案する」とうたっていますが、なぜ5年先なのでしょうか?

未来というと、なんとなく10年以上先のイメージがしますが、10年先だとちょっと想像しづらい。仕事上だと、3年先のことは構想がありますよね。

5年というのは、ちょうどいいんです。5年っていわれると、「そろそろ考えておこうかな」っていうくらいの感じじゃないですか。人生もそう。転職しなきゃとか、そろそろ結婚しなきゃとか、もうすぐ定年だからとか。将来どうしようって考えるのは、だいたい5年先のことなのかなと。

つまり、遠すぎない、ちょっと近い未来を意識しています。5年先を予測するのではなく、5年先を見て歩く。だから、F.I.N.はずっと5年先を提示し続けるメディアと考えているんです。 例えば、ある記事を見て、「なるほど、こういうおもしろいことがあるんだ。じゃあ、うちもこのビジネスをやろう」となったときに、3年じゃちょっと足りない。でも、5年だったらまだ検討の余地があって、それをヒントに何かを考えられる。そんな感じです。

売れることやPVを上げることだけが目的ではない

――制作するコンテンツは、どのようにして決めているのですか?

立ち上げ時は、外部の制作会社の編集者と相談しながら、コンテンツの方針を決めていきました。外部のスタッフとうちのメンバーが編集会議をして、どういうテーマにしぼっていくかを全員で考えました。

例えば、伊勢丹さんがファッションに強い百貨店だとすると、大丸松坂屋は生活・暮らしに強い百貨店と位置付けたい。じゃあ、どういうテーマにしようかと考えたとき、どんな商品に紐付けるのか、逆に商品とまったく関連のないテーマにするべきか、未来を感じるものは何かを常に考えています。毎回同じような記事ではなく、見る度に違う方向性の記事が出るように、1ヵ月単位で会議をして決めています。

――2年半経った今も、コンテンツは同じようなプロセスで決めているのですか?

外部のプロの考え方から徐々に離れて、ほぼ社内のスタッフだけで決めるようになってきました。プロは、僕らにはないネットワークも企画力もあるんですけど、やはり外部のプロは売れる(読まれる)目線で考えがちなんですよね。でも、僕らは売れることやPVを上げることだけを目的としているわけではない。

例えば今、携帯電話の5Gが話題になっていますが、そういったテーマは逆に避けることにしています。いくら未来感があったとしても、誰もが思い付くようなテーマ、どこでも扱うようなテーマは避ける。そういうポリシーです。

KPIは、クリエイターの人たちとネットワークを作ること

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――KGIとKPIは何を一番の指標にするのですか?

難しいところですね。もちろん、PVもログも見て計測はしています。ただ、それ以上に、F.I.N.が好きなファンがずっと読者でいてくれる状態を作りたかった。

メディアとしてのKPIとかKGIではないのですが、F.I.N.では、年間を通して100人以上、延べ250人くらいの目利きにインタビューをしてきました。その250人の人たちと、今も結び付いているんです。1回きりのインタビューで終わらせずに、その後もお付き合いをさせていただくように心掛けています。

社内の人間から売り場の改装について相談されたときに、インタビューをしたクリエイターを紹介したりして、関係がつながる。あえてKPIとするなら、クリエイターの人たちとネットワークを作ることですね。いつでも相談できるし、いつでも仕事のコラボレーションができる。そのクリエイターの方のネットワークで、また別の人を紹介してもらうこともできます。

また、月に1回F.I.N.主催で、「未来定番サロン」というリアルイベントを開催しています。F.I.N.に登場してくれたクリエイターといっしょに、未来の種について意見交換できるイベントです。これにF.I.N.の読者の方がたくさん申し込んでくれるんですが、この申込み数も指標といえば指標ですね。

――インタビューをする目利きやクリエイターは、どんな基準で選んでいるのですか?

明確な基準は決めていません。「自分たちが会いたい人に会う!」というくらいです。ちょっと先(未来)を見ている人が基準といえば基準ですが、どんな人というより、何をしているかという「コト」のおもしろさだと思っています。

まだ発見されてない新しいマーケットを作っていきたい

5未来定番研究所のオフィスには、銅細工店だったときの道具がそのまま残されている。

 

――あえて大丸松坂屋の名前は前面に打ち出していませんが、F.I.N.の最終的な着地点はどこにあるのですか?

最終的かどうかはわかりませんが、僕が今目指しているのは、「小さな価値観を大事にしたい」ということです。

マーケティング調査をすると、どうしても「その市場はどこにあるの?」「こういうターゲットがいます。何万人います。市場規模何億円です」という話になってしまう。そうなると、今までどおりのマーケティングなんです。競合他社も当然参入してくる。そうではなく、まだ発見されてない新しいマーケットを作っていきたい。

ハロウィンだって、10年前までは一部の人たちの娯楽だったわけで、それがいつの間にか巨大な市場になった。最初は小さな種だったはずなんですよね。タピオカだって昔から普通にあるのに、今になって大ブームになった。ヒットしないままでもいいんですけど、その小さな種を大事にしようというのが、僕らの思想なんです。

百貨店は、便利さや品揃えではもう勝てない。昔の百貨店はそれで良かったんですよ、品揃えが多いから「百貨店」だったわけですし。しかし、今はそうじゃない。百貨がそろうのは、Amazonのようなネット通販なんです。便利なのも安いのもネット通販。そうなると、百貨店には「ここにしかない物」を置かないといけない。 「ここにしかない物」が何かといえば、誰かの「好きな物」です。そういう「好き」という種を、いくつも作るのが僕の理想ですね。

ネットで買えるのに、なぜわざわざ電車賃を払って歩いて百貨店に行くのか…。しかも、割高の百貨店にわざわざ行くのは、やはりその場が好きだからということだと思います。

店員さんが好きなのかもしれないし、店舗の内装が好きなのかもしれない。流れている空気感が好きなのかもしれない。そういうものが大好きな人たちが集まってくる場所にする。 だから着地点は、「好きを作る」っていうことですかね。人がまだ注目していないテーマをどんどん発信していくことで、小さな種を作っていくことです。

小さな種には価値観の共通した人が集まる

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――「種を作る」という意味で、これまで具体的にリアルな店舗設計をしたことはありますか?

店舗設計ではありませんが、この秋に未来定番研究所から輩出した新しいビジネスを、2つ発表する予定です。残念ながら、これはまだ具体的にはいえません。

それ以外にも、ほかでは得られない体験を売り出すことを始めます。例えば、普通では入れない所に入れたり、予約がとれないレストランのシェフに料理を作ってもらって特別な部屋で食べたりするツアーなどですね。

今秋、上野店で「日本の職人 伝統の技・革新のWAZA展」というイベントがありました。これは、何年も続いてきたものづくりの人たちを集めて手仕事を見せ、即売する催しです。 ここでも、F.I.N.の一企画である「未来定番サロン」でインタビューした方を招き、実験的にトークショーやワークショップを開催しました。

――F.I.N.の読者はどんな層をターゲットにしているのですか?

いわゆる、F1とかM1といった分類ではなく、年齢、性別、年収、住んでいる地域、職業などの属性は一切除外し、同じ価値観で切る「価値観マーケティング」を実践しています。ふたを開けてみたら、結果的に20代女性と50代男性が同じ価値観を持っているかもしれない。

小さな種には、ギュッと凝縮された価値観の共通した人が集まるんです。男だからこうとか、これは女性にウケるとか、勝手に決めつけているだけで、今は、そんな風に分けられる時代じゃない。皆さん、ネットで検索するリテラシーも高いので、自分が本当に好きなものは、隠していても必ず探し当てますよね。

広告を打たなくても、ちゃんとしたコンテンツを提供していれば、人は集まって来るという信念でやっています。 気になることを検索したら、F.I.N.が見つかった、というのが理想です。

「場の持つ力」が重要だから、古民家をオフィスに

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――オフィスを古民家にしたのは、どんな狙いからですか?

最初に申し上げたように、F.I.N.の役割は予測ではなく、「未来を創り出す」こと。オウンドメディアで種を提示していくのが、おもな業務です。そうすると、年間100人以上にインタビューしたり、先端的な人と打ち合わせしたりする場所として、本社ビルの殺風景なオフィスの一角だと、やりたいことができないと思ったんです。

だから、もっと自由に出入りができて、僕らも自由に出ていける環境が欲しかった。場の持つ力が、すごく重要だと思うんです。古民家の風情ある庭を見ながらインスピレーションを受けたり、いつものオフィスと違った新鮮な環境でくつろぎながら話し合ったりすると、みんな気に入って気軽に訪れてくれるようになるんです。

――メディアの一番のおもしろさは、どういうところだと思いますか?

やはり人が人を呼んで、人が人を介して、また次の人と知り合えるところだと思いますね。 コンテンツの力だけで、ファンがジリジリ増えていることに、最大のやりがいを感じています。

 

今谷秀和(いまたに ひでかず)
株式会社大丸松坂屋百貨店 未来定番研究所長。乃村工藝社、伊藤忠を経て、1990年に株式会社電通へ入社。空間プロデューサーとして、ミュージアム、イベント事業ののち、ネットビジネス、テレビビジネスのネット対応を主導。2015年、大丸松坂屋百貨店入社。経営企画室にてビジョン策定および次世代のマーケティングを提唱し、未来定番研究所を立ち上げる。「5年先の未来」に定番になる種を発掘するためのメディア、F.I.N.を企画運営。社内向けコンサルティングファームとして、さまざまなプロジェクトを提案している。

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