足を運んで自分のフィルターを通さないと、付加価値の高いコンテンツは生まれない

足を運んで自分のフィルターを通さないと、付加価値の高いコンテンツは生まれない

働き方改革が提唱される昨今、企業のオフィス環境にも注目が集まっている。そんな潮流の中、2011年からオフィス環境の最先端情報を伝えてきたコクヨのオウンドメディア「WORKSIGHT(ワークサイト)」だ。

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時代に先駆けてオフィス改革の必然性をうたってきたコクヨの「WORKSIGHT」は、オウンドメディアに対し、どんな思想を持ち、どんなコンテンツを目指し、どんな未来を描いているのか。「WORKSIGHT」編集部の拠点であり、コクヨのビジョンが凝縮されたコンセプトショップ空間「THINK OF THINGS」で、編集長の山下正太郎氏にお話を伺った。

オフィスの既成概念を覆すために生まれたメディア

――「WORKSIGHT」には「環境を変える」「働き方が変わる」「成果が出る」というコンセプトが掲げられています。この言葉に込められた意図を教えてください。

「WORKSIGHT」は、元々1988年に創刊された、「ECIFFO(エシーフォ)」という海外の先進的オフィスを紹介する雑誌が前身です。OFFICEを逆読みしたネーミングですが、これにはオフィスの既成概念を覆すという意味が込められていました。

1980年代に内需拡大を狙った「ニューオフィス推進運動」という通商産業省(現・経済産業省)主導の政策があり、それを発端に日本のオフィスを変えていこうというムードが高まってきました。そのときに参考になるような情報を発信していく雑誌が「ECIFFO」だったのです。「ECIFFO」は2009年に休刊したのですが、2011年に「WORKSIGHT」として生まれ変わりました。

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コクヨのコンセプトショップ「THINK OF THINGS」。店内にはステーショナリー、ファニチャーがきれいにディスプレイされ、自社の新しい価値をユーザーにダイレクトに届けるオウンドメディアとしても機能。

――生まれ変わった「WORKSIGHT」を運営されて7年目となりますが、どのように変化してきましたか?

「ECIFFO」の時代は、空間デザインの記事が多かったのですが、次の段階に進むため、もう少しルールやマネジメントなど、ソフトの領域まで「環境」の定義を広げていこうと意識してきました。それが「環境を変える」「働き方が変わる」「成果が出る」という表現になっています。

「WORKSIGHT」は、今までは冊子(年2回発行の紙媒体)が主でしたが、オウンドメディアやSNS、イベントなど、O2O(※)を視野に入れ、いろいろなメディアをミックスしながら価値を届けようと考えています。

※Online to Offlineの略。オンラインから、ネット外の行動・購買行動へと促す施策のこと。

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年2回発行される冊子「WORKSIGHT」。

メディア運営の3つの狙い

――「WORKSIGHT」には、どのような狙いがありますか?

「WORKSIGHT」には、おもに3つの狙いがあります。

1つ目の狙いは「業界でのポジションを上げる」というものです。コクヨは文具や家具をおもな生業としています。商流でいうと文具・家具は、働く環境づくりの最後のほうになります。 例えば、オフィスを構えるとき、まずオフィスビルを企画するデベロッパーがいます。そして、そのビルを設計する事務所がいて、建設会社がいて、またその中にオフィスをデザインするデザイン事務所がいる。そして最後に、家具や文具を入れるという流れですよね。ビジネスは、工程が後ろになってくると、どうしてもコストや時間も限られた、主導権のない「モノ」を納品するだけになりがちです。 だから、なるべく上流のポジションから仕事ができるようにしたい。そのためには、やはり世界中の最先端の情報や働き方の潮流、そしてノウハウと知見を自社で持つことが、必然になってきました。

2つ目の狙いは、研究開発のために「自社の知見にする」というものです。海外のほうが、トレンドが先行していますので、できるだけ早く情報を入手したい。かといって、海外の最先端のオフィスをただ「見せてください」と言っても、受け入れられる理由がなければいけません。メディアがあれば企業にとってPRにもなりますので、訪問がしやすくなる。お互いにとってWin-Winな状態を作ることができます。

3つ目の狙いは「市場を育てる」というものです。働き方改革が提唱される昨今、オフィス環境を改善したいというニーズは高まっていますが、多くの担当者が他社との比較ができず、良いオフィス環境の具体的なイメージを持てていないことは事実です。そんなとき、メディアで世界のオフィス環境のトレンドを継続的に発信していくことで、市場を育てることができます。これは、自社のブランディングにもつながると考えています。

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オフィスのような落ち着いた空間が広がる「THINK OF THINGS」の店内スペース。打ち合わせやメディアの撮影に利用されることも多いという。

――まさに一石三鳥というわけですね。メディアのニーズが高まっている実感はありますか。

近年は、業種でいえばIT企業、部門でいえば企画部門、研究開発部門など、人が考えてモノやサービスを作り出す知的労働生産の業種・業態の企業では、オフィスに投資しようというマインドが盛り上がってきています。知的労働生産型の企業は、オフィス環境を良くすれば、働く人のモチベーションや生産効率が上がることが理解されてきています。

特に、冊子の「WORKSIGHT」では、オフィスだけでなく、都市にもフォーカスをあて始めています。今、都市の競争力が企業の競争力に直結してきています。もちろん、オフィスも重要ですが、働く人が住む場所や、オフィス周辺でどういう刺激を受けるか、どういう活動ができるかということに目線がシフトしてきているんです。

KPIよりブランディング

――具体的にサイトを運営していく上で、KGI、KPIは設定されていますか?

具体的なKGIやKPIはありません。目先の数字や利益より、社会的なインパクトをどう出していくか、どんな反響があったかを意識しています。

――ブランディングの意図が強い?

そうですね。PVが上がったとしても、直接売上につながるとは限らない。BtoBがおもなので、その決裁者一人だけに響けば、それが大きなビジネスになるということもある。だから、数字的なKPIは設定しづらいですね。

ただ、フラッグシップになるようないい案件が生まれたり、外部からのコラボレーションのお声掛けをいただいたりすることは、成果の指標として考えています。

ブランディングという意味では、今、ビジネス誌の「Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)」と提携して記事を提供しているのも、Forbesさんからお声掛けいただいたという経緯があります。あとは有名企業の本社移転の案件にプロジェクトの企画段階から入れたことなどは、「WORKSIGHT」のブランドがあったからという手応えはあります。

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付加価値の高い希少性のある情報を

――今後の課題や展望は?

課題としては、社外に対してまだまだ「WORKSIGHT」としての働き方や、働く場所の認知を広めきれていないこと。あとは、もっとリサーチをしていきたいですね。今はケーススタディ(事例)が中心なので、横串でいろいろな統計分析を出したり、世界と日本のオフィス事情を比較したりしています。希少性のある情報のほうが、より付加価値が出てくるので。

――情報量で勝負しても、消耗戦になって、価値は上がっていかないと。

メディア専門の企業ではないので、量よりも質で訴求したいと思っています。あとは、直接現場へ行って、自分のフィルターを通してアウトプットすること。客観性はもちろん重要ですが、みずからのフィルターで咀嚼し、分析することが独自性の高いコンテンツにつながると信じています。

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「THINK OF THINGS」1階のCAFEでは、「OBSCURA COFFEE ROASTERS」プロデュースの4種のコーヒーを基本としたドリンクと、フード系・スイーツ系をそろえたワンハンドスタイルのコッペパンサンドを提供。

体制づくりのポイントは?

――現在、どのような体制でサイトを運営していますか?

私を含め社員が3名いて、プロジェクト全体を統括する外部の編集プロダクションが1つあります。その下にライターやカメラマン、デザイナー、ディレクターという体制になっています。創刊からほぼ固定化されていますね。

――外部スタッフと連携するメリットとデメリットは?

メリットは、自分たちの狭い見方から解放されるところです。「こういう風に見せると、こういう意図がより伝わりますよ」とかアドバイスしてもらえる。やはり、専門家にしかわからないようなことがあります。

――企画やコンテンツ制作の面で、そこが一番大きい?

そうですね。企画は基本的に社員で立てているのですが、見せ方の部分では非常にありがたいと思っています。あとは、ウェブ周りの技術も。

デメリットは、当初はオフィスについてきちんと書ける人がいなかった点が挙げられます。「おしゃれなカフェがあって…」とか、オフィスだと「そこは重要じゃないんだよなぁ」ということが当初はありましたが、現在は信頼できるライターと試行錯誤をしながら進めています。

オフィスには、ビジネスモデルやデザイン、ITなど、複雑な要件が絡んできますので、幅広い表現をしてくれる人が求められる。そういう意味でオウンドメディアは、専属ライターが必要だと思います。企業の伝えていきたいメッセージを理解して形にするのに、どうしても時間がかかりますので。オウンドメディアのライターは、文章のうまさより、いかに企業のコンセプトを理解するかがポイントだと思います。

――今後、メディアで発展させていきたいことはありますか?

得られた情報やネットワークの再利用の仕方を考えたいと思っています。インタビューでコネクションができれば、その人たちと何か仕事を作っていくとか。あと、人気ランキングを見ると、古い記事が結構多く、一過性の記事はほとんどない。だから、そういう長持ちするコンテンツを重視していきたいです。

――ストック型の、いわゆる「エバーグリーンコンテンツ」(時期に影響されないコンテンツ)と呼べるものですね。

そうですね。「WORKSIGHT」の記事はあまり時間の概念がないかもしれません。フロー的な一過性の記事が少ないのは、いいのかもしれないですが、ずっと波風の立たない感じではありますね(笑)。

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「THINK OF THINGS」2階の多目的スペース「STUDIO」では、自主企画のイベントを中心に開催しながら、レンタルスペースとしても開放。

ソートリーダーとして価値を出すには?

――発信する情報は、どうやって収集していますか?

普段からチェックするメディアはいくつかありますが、最も重視するのは海外のカンファレンスですね。世界中の専門家たちが集まって、事例などの情報交換をする場ですが、最大の魅力は大きな業界の動向やパースペクティブ(展望)を得られることです。そういうところに足繁く通うことで、経年での変化についても理解できるようになります。

直近では、ロンドンのカンファレンスに行きました。店舗やショップの最新事業を紹介するものだったのですが、一般消費者に近い業界は必ずオフィスの何年か先の状況を表していて、「次はこうなるんだな」という傾向がなんとなく見えてくる。そういう情報は、なかなかネットでは収集できず、足を運ばないと見えてこない。

一次情報を自分のフィルターに通すのが、すごく大事だと思っています。他のメディアの記事を読んで取材に行くと、間違っていることも少なくありません。

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「THINK OF THINGS」では「ワークとライフの境界を超える」をテーマに、文具、家具、ファッション、プレイ&アート、雑貨、ストック類などを提案する。

――これまで、コンテンツマーケティングを具体的に意識されたことはありますか?

コンテンツマーケティングという言葉自体は、あまり意識したことはありません。ただ、何年後かに必ず直面する課題や、情報感度の高い人たちが気になっている問題を取り扱っていきたいとは思っています。「今、まさに困っている」という、課題解決のようなコンテンツはあまり考えていません。

――ターゲット層としては、かなりアーリーアダプター(革新的商品やサービスなどを早い段階で受容する人)になりますね。

そうですね。かなりアーリーアダプターに寄っています。そこをやらないと、業界のソートリーダー(※)としては価値がない。業界で良いポジションは取れないですし、顧客に対してもリードできるポジションになりえないので、大きなポイントですね。

※Thought Leader。思想的リーダーとも呼ばれる。特定の業界において革新的なアイディア・解決策をいち早く提示するリーダーのこと。

――ありがとうございました。

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「WORKSIGHT」編集長 山下正太郎

コクヨ株式会社に入社後、オフィスデザイナーとしてキャリアをスタート。その後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンセプトワークやチェンジマネジメントなどのコンサルティング業務に従事。コンサルティングを手掛けた複数の企業が「日経ニューオフィス賞」を受賞。2011年にグローバルで成長する企業の働き方とオフィス環境を解いたメディア「WORKSIGHT(ワークサイト)」を創刊。また、未来の働き方と学び方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(ワークサイトラボ/現ワークスタイル研究所)」を立ち上げ、研究的観点からもワークプレイスのあり方を模索している。

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著者紹介

成田 幸久(なりた ゆきひさ)
成田 幸久(なりた ゆきひさ) コンテンツディレクター(コンテンツマーケティング戦略支援・制作支援)

AMEX会員誌「IMPRESSION」や「ワイアード」日本版、JAL機内誌「winds」などで副編集長を務めた後、眞鍋かをりなどの著名人ブログをプロデュース。ほか、「ギズモード・ジャパン」創刊ディレクター、セブン–イレブンとヤフーの共同事業メディア「月刊4B」編集長、オウンドメディアのアドバイザリー支援など、ウェブメディアの企画・運用など実績多数。著書に『愛されるWebコンテンツの作り方 』がある。

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